がん医療は、生活と切り離されない時代へ
がん治療はこれまで、「病変をいかに強く排除するか」という視点が中心でしたが、現在は治療と日常生活を両立させることが重要な価値基準として捉えられるようになっています。仕事や家庭、社会的役割を維持しながら治療を受けたいと考える方にとって、強い副作用や長期入院を伴う治療は大きな負担となります。がんを「ただ取り除く対象」ではなく、「身体全体のバランスを保ちながら制御する対象」として考える医療が、現実的な選択肢として広がり始めています。その流れの中で注目されているのが腫瘍溶解ウイルス療法です。2025年12月、岡山大学発の研究成果を基盤とするウイルス製剤テロメライシン(一般名:テセルパツレブ)が、食道がんを対象として厚生労働省に製造販売承認申請されました。これは日本の基礎研究が、臨床医療の新たな可能性として結実した重要な動きといえます。
腫瘍溶解ウイルス療法とは —— がん細胞を見分けて働く治療
ウイルスを用いたがん治療の発想は古くから存在していましたが、過去には安全性や制御の難しさから、医療として確立するには至りませんでした。近年の分子生物学と遺伝子工学の進歩により、ウイルスの働きを精密に設計することが可能となり、腫瘍溶解ウイルス療法は現実的な治療選択肢へと進化しています。テロメライシンはアデノウイルスを基盤とし、がん細胞で高く発現するテロメラーゼ活性に反応して増殖するよう設計されています。そのため正常細胞ではほとんど増殖せず、がん細胞の中で選択的に増え、内側から腫瘍を壊す仕組みを持っています。この「見分けて働く」という特性が、従来の治療とは異なる身体へのやさしさと治療効果の両立を可能にしています。
身体への負担を抑えながら期待される治療効果
今回の承認申請で中心となった臨床試験は、手術や強力な化学放射線療法が難しい高齢者の食道がん患者を対象に行われました。従来の食道がん治療は侵襲が大きく、嚥下障害や体力低下など日常生活への影響が課題とされてきましたが、テロメライシン療法では内視鏡を用いて腫瘍局所へ直接投与することで、全身への負担を抑えながら治療を行うことが可能です。放射線治療との併用により、約半数の患者でがんの消失が確認され、重篤な副作用は限定的でした。これは、治療のために生活の質を大きく損なうことなく向き合える医療の可能性を示しています。
がんを壊すだけでなく、免疫を整えるという考え方
腫瘍溶解ウイルス療法の特徴は、がん細胞を直接壊す作用に加え、患者自身の免疫機能を再び働かせる点にあります。がん細胞がウイルスによって破壊される過程で腫瘍抗原が放出され、それをきっかけに免疫細胞が活性化し、がんを再認識する状態へと変化していくことが分かっています。この作用により、治療部位だけでなく全身の免疫反応が促される可能性があり、近年使用されている免疫チェックポイント阻害薬との併用についても期待が高まっています。治療は一度きりの処置ではなく、身体全体の防御力を整えていくプロセスへと進化しつつあります。
バイオスタイルクリニック神戸三宮が大切にしていること
腫瘍溶解ウイルス療法は今後、対象となるがんの種類や他の治療との組み合わせが広がり、患者一人ひとりの状態に応じた医療へと発展していくと考えられています。治療とは病変だけを見るものではなく、治療後の生活や人生設計まで含めて考えるべきものです。バイオスタイルクリニック神戸三宮では、最新の医学的知見を踏まえながら、患者さま一人ひとりの身体状態や生活背景、価値観を大切にした医療を心がけています。がん治療は、恐怖や我慢を前提とする時代から、理解し、納得し、自ら選択する時代へと移り変わっています。私たちは、その変化の中で、患者さまに寄り添いながら冷静で誠実な医療を提供する存在でありたいと考えています。
